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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(行ツ)103号 判決 1965年5月21日

上告人

千葉県選挙管理委員会

右代表者委員長

中村作次郎

右指定代理人

黒川政彦

梶晋一郎

右訴訟代理人

長戸路政行

被上告人

長谷川太祐

被上告人

佐久間敏雄

右両名訴訟代理人

和田良一

金山忠弘

大下慶郎

大下定之進

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中村作次郎名義、同長戸路政行の上告理由一及び二について。

本件町長選挙においては、公職選挙法一九四条及び同法施行令一二七条による選挙運動費用額は一八四、〇〇〇円であるべきところ、八四、〇〇〇円と誤算して告示されたというのである。それがいわゆる選挙の規定に違反することはいうまでもなく、しかもこのように告示額が正しい法定費用額の半にも満たない著しい誤算の存する場合においては、各候補者が告示の費用額をもつてできるだけ効果的な運動方法を採用したとしても、到底正しい費用額のもとの運動効果と同様ではありえないから、その違法は各候補者の得票数に影響し、その選挙の結果、すなわち当落に異動を生ずる可能性をもつことを否定しがたい。

論旨は、本件選挙が一〇二二票にのぼる当落得票差を生じた事実に徴し、たとえそれが正しい運動費用額によつて行なわれたとしても、費用制限は各候補者に対して同一である以上、次点者たる被上告人長谷川太裕が当選したであろうという蓋然性は認めがたいものとし、かかる蓋然性の見出せないかぎり、本件告示の違法な選挙の結果に異動を及ぼす虞れのないものと主張する。しかし前叙のような著しい誤算のある告示のもとにおいては、右の得票差を生じた事情から直ちに所論のように長谷川に当選の蓋然性はないと断じがたいのみならず、その違法の各候補者の得票数の増減に及ぼす影響の程度、範囲をみだりに憶測することは許さるべきではないから、その違法にかかわらず当落に異動を及ぼす可能性のないことを確実と肯認するに足りる具体的事情の認むべきもののないかぎり、選挙は無効と判定せざるをえない。

なお論旨は、原判決が本件告示の瑕疵は、当選人寺内元助に比すればいわゆる新人候補である被上告人長谷川により多くの不利益をもたらし、不公平な選挙をした結果を招来したものとして、これを違法の選挙の結果に異動を及ぼす虞れのあることの理由としたのを非難する。本件告示による選挙運動費用額の違法な制限は、各候補者の均しくうけるところであるにしても、候補者それぞれの個人的事情その他により各自の現実に被る影響に差異の存することはいうまでもないが、長谷川候補が新人候補なるが故に本件告示の違法が同人に対しより不利益に影響したもののごとく一概に断じうべきものではない。しかし本件選挙については、前叙のように、その違法の当落に異動を及ぼす可能性を否定しがたいものが認められ、原判決もまた「本件選挙が正しい法定選挙費用の下で行なわれたとすれば、原告長谷川が当選したと断定することが出来ないと同様に当選しなかつたと断定することもできない」旨を説示して、このような長谷川の当選の可能性の存在をもつて、違法が選挙の結果に異動を及ぼす虞あるものとしているのである。従つて原判決の前示判示部分は相当でないとしても、本件選挙を無効とした原判決の判断の結果を動かすに足りない。結局原判決は正当であつて、論旨はいずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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